時計塔の鬼


なぜだ?


夕枝が久し振りに話をする人間だからか?




そんな疑問や考えも、夕枝と夕陽を見ていたら些細なことに思えてきた。



時計塔の手すりに組んだ腕を乗せて、その上に顎を乗せる。



隣りの夕枝は乗り出している。




「夕枝って、小せぇな」



そう呟くようにしたら、キツめのお叱りの言葉。



「私は普通で、シュウが大き過ぎるだけ! 巨人みたい」


「俺、鬼」


「じゃあ、巨神兵ね」


「夕枝は小人族か?」


「……昔好きだった物語だから、許す」




なんだそれ。


俺が吹き出したら、夕枝も笑った。





カラスの呑気な鳴き声が近くに聞こえる。


グラウンドからは人間たちの鋭い声が、重なって響いてきた。



赤い太陽が、俺たちの姿も色付かせる。


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