時計塔の鬼
光が――。
最初に思ったのは、それだけだった。
さらなる過去へ、と思ってからしばらくは時空の中を流れていたのだが、ふいに視界から幾何学模様が消えた。
そうして次に見えたのは、ただの白。
強い光だけだった。
「なん、だよコレ……」
悪態をつきながら、光が弱くなったのを待って、目をパシパシと瞬かせた。
やっと正常に動き出した視界に現れたのは、大樹の根元に仲良く腰掛ける一組の男女。
「やだわ、誠一さんったら」
「いやいや、おもとさんは本当に美しいからね」
「あら。誠一さんの美貌には遠く及ばないのを知っててそうおっしゃるんだから、本当にタチが悪いわ」
ひどく仲睦まじそうな二人。
……いや、その表現は少し間違っているのかもしれない。
なぜなら、女は普通の人間なのだが、男は違ったからだ。
人間の隣に座る美貌の男は、頭から角を生やした、正真正銘の鬼だった。
おそらく、季節は夏だろう。
強い陽射が照りつける中、大樹の根元は木陰がさわさわと揺れて、涼しそうだ。
周りを見渡すと、遠くまで広がる緑の穂が風に揺れていた。