時計塔の鬼
こんな田園地帯、初めて見た……。
目を凝らせば、山のふもとにまで戻りは広がっていて、所々にポツンと民家が建っていた。
それも、俺の居た時代の家ではなく、明治や江戸の時代を彷彿させる、立派とは言えない造りの家々だ。
「ここはどこなんだ……?」
独り言のつもりだった。
突然、背後で地面を蹴るジャリッという音がして、振り返る。
そこにいたのは、先ほどの鬼だった。
「やあ、初めまして、かな。半人前のボーヤ」
先の方で緩く結っただけの彼の長い黒髪が、風に揺れた。
「アンタ、誰だ?」
「クスッ。そう敵意ばかり向けないでくれ。ボーヤにとっては初めての同胞なのだろう?」
「……なぜそれを知っている」
「さあね。今は教えてあげられないよ」
肩透かしを食らったような気分だ。
にっこりと屈託なく笑った彼に、とりあえずは緊張と警戒を解いた。
「ボーヤ、名前は?」