時計塔の鬼
「……相手に名前を尋ねる時は、まず自分からだろう」
「おや、これは失礼した。私のことは、そうだね……ゲンとでも呼んでくれればいいよ」
「……俺のことはシュウでいい」
「そうかい、シュウ、ね。わかったよ」
「で、なぜシュウはここにいるのかな?君はこの時代を生きているわけではないんだろう?」
好奇心を丸出しにしたゲンが、薄い着物の袖を揺らして腕を組んだ。
キラキラと輝く瞳は、濃い墨色。
自分とは少し違う類の美貌を持つ鬼は、俺に対してどうやら多大な好奇心を持っているようで、そんな雰囲気をハッキリと醸し出していた。
「……過去が知りたかったからだ」
渋々、問いに答えてやる。
俺が辿り着いたこの時代で、出会った正真正銘の鬼であるゲン。
彼ならば、時計塔の過去につながる何かを持っているはずだから。
そうでなければ、俺がこの時代に流された理由が思いつかない。
「へぇ……。それはそれは、大層なことだね」
「茶化すなよ。……さっきの人間の女は?」
「ああ、おもとさんのことかい?彼女は私の恋人だよ。あ、手は出さないでおくれね」
「誰が他人の女に手を出すかよ」