時計塔の鬼
「そう。それを聞いて安心したよ。彼女が何か?」
「いや……。アンタがその女を恋人というのなら、鬼と人とが添い遂げる道はあるってことか?」
真剣に、問う。
彼が……正真正銘の鬼が『ある』と言うのなら、俺と夕枝とのことにも、何かしらの希望があるのかみしれない、と思ったからだ。
当初の目的は、忘れていない。
だが、この質問も、俺にとってはとても大事なことだった。
けれど、俺の問い掛けに、ゲンは曖昧に笑って、「さあねぇ」と答えた。
「そうか」
「そういえば。君に大切な人はいるのかい?」
ふいに、ゲンが突然真剣な口調で、そう口を開いた。
視線を合わすが、彼の目は真剣だった。
大切なひと。
そう聞いて、俺が思い浮かべるのは、ただ一人。
「…………居る」
「そう。よかったよ。ボーヤが孤独ではなくて」
今度彼の頬に浮かんだのは、春を連想させるような暖かな笑み。
子どもにするように、くしゃりと頭を撫でられた。
髪がぐしゃぐしゃになった。
なんなんだよ、突然……。