時計塔の鬼


「私はね、昔、この大樹に木登りをしていて落ちてしまったおみきさんを助けたことがあったのだよ。その時にチカラを少し使ってしまったんだが、そのためか、この大樹は死にに行くものをまれに助けてしまうんだ」


「そ、れは……」


「それに気付いたのは、鳥のヒナが巣から落ちたのに無傷だった時だよ」



愕然と、するしかなかった。

つまり、俺は鳥のヒナと同レベル。

時計塔から落ちて死ぬところだったのを、このゲンのチカラが、俺を助けた。



「それから何をしでかすかわからない彼女を見守っていたのだけれど……彼女の一人娘を好きになるなんて思わなかったな」



ボソリと最後に呟かれたのはきっと、自嘲とノロケの両方だろう。



「で、ボーヤはこれからどうするんだい?」


「え?」


「鬼としてか、ただのシュウとしてか。生きる道は一つじゃないからね。君の鬼としてのチカラはもうほとんどないと考えていいかな。ここに来る前にどこかへ寄ったのだろう?チカラの使いすぎだよ」



鬼としてのチカラがもうほとんどない、というのは……。

俺は、消滅するということなのか?



夕枝。

死ぬのかもしれない、と漠然としていた頭に浮かんだのは、人間の恋人だけだった。

ちらりと、ゲンに目をやる。

彼もまた、人間の女を好いている。
 
鬼とは、人間に惹かれるものなのか……?


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