時計塔の鬼
to the exit of the light.
そうしてまた気が付けば。
俺は幾何学模様の中を流されていた。
ただし、先ほどとは違い、その流れは急で、速い。
「ゲン、か……」
彼は、おもとさんとやらと幸せに暮らしたのだろうか。
ふと、そんなことが気になった。
幸せに暮らしているといい、と思う。
あの鬼はとても優しかったから。
未熟で生意気な見知らぬ同胞に、親切にしてくれた。
人間だった時、他校に居た幼馴染みと同じくらい、いいヤツだった。
もう、会うことはないだろうが……。
『シュウ……っ!』
幾何学模様の中を漂っていた俺の耳に、ふいに届いた声。
それは……。
「夕枝、か……?」
想像できてしまう。
思い出せば、俺がさくらにいきなり、しかも勢いよく抱きつかれて頭を打ち、気を失ったんだ。
俺の意識はそのままこの幾何学模様の世界に来ていたんだが……。