時計塔の鬼
夕枝のことだ。
心配せずにはいられないんだろう。
クールなふりをしているが、しょっちゅう人情に振り回され、本人に自覚があるのかどうかは知らないが、お人好しの気がある。
それが、夕枝だ。
……戻ったら、心配をかけたことをまず謝らなければならないだろうな……。
もしかすると、それが一番大変なことかもしれない。
まず心配かけたことを怒られて、俺が「悪かった」と謝ると、「仕方ないね」と苦笑して許しそうだが。
夕枝はよく怒るが、たまに泣く。
そして、よく笑う。
彼女の感情の起伏は、慣れるとひどくわかりやすい。
それがわかるかどうかというだけで、夕枝がその相手に対して気を許しているかどうか、がわかる。
それが夕枝の男友達にまで至る様は、夕枝が好きなオトコとしては少し……否、実はかなり複雑だが。
俺は……現代に帰って、何をすべきなのだろうか。
ふと、唐突にそう思った。
今まで通りに、時計塔で暮らすというのも悪くはない、が――。
「夕枝がいつまでもこの学校にいるとは限らない、んだよな……」
新任教師にとって、三年というのは一つの区切りだろう。
夏休みには研修などへも積極的に行っている夕枝だ。
人事異動で他校に赴任されるのも、遠くはないだろう。
そうした時……俺はきっと、夕枝の邪魔になる。
夕枝の心残りをなってはいけない。
何より……俺は、夕枝のずっと一緒にいたいからこそ、“人間になりたい”と願う。