時計塔の鬼
夜闇の中。
それは、負の感情を増幅させてしまいそうで、ひどく恐ろしい。
けれど、そんなものは、大切な人とともにならば、いとも簡単に乗り越えられるような気がする。
「……起きないね、シュウ。いつまで寝ているの?」
朝、目覚める前のまどろんでいる人に言うように、優しく語りかける。
コンクリートの床に触れている両膝が冷たかった。
けれど、そんなことはお構いなしで、さくらさんを見上げていた視線とともに、上げていた腰をそっと床につけた。
「……いい加減に、起きてよ……ねぇ、シュウ」
「……悪ぃ」
期待、していたのだけれど、こんなすぐにそれが叶うとは夢にも思っていなかった。
私は、すぐには反応なんてできるはずもなかった。
けれど――。
「……ただいま」
体中に温もりと強い力で圧迫される感触を感じ、そうしてやっと、私は起き上ったシュウにきつく抱きしめられていることを悟った。