時計塔の鬼


きつく、きつく。

圧死させられるのではないかと思うほど、痛いくらいに。

まるで、腕の中の存在が消えてしまうのを留めようとするみたいに、シュウの抱擁は長く、強く、そして温かかった。



「夕枝……」



耳元で囁かれる声は掠れていて、それゆえにどこか色っぽさを感じさせた。

ポッと顔に熱が灯るのを自覚する。

けれど、それも仕方のないことだ。

相手がシュウなのだから。



「シュウ……? 本当に……?」


「……ニセモノが居るのならお目にかかりてぇな」


「バカ……」



シュウだ。

シュウが、目覚めてくれた。

少しひねくれたシュウの物言いは、出会ったころを思い出させる。

堪え切れずに、温かい雫が頬を伝った。

コンクリートに落ちたそれが黒い染みのように、ぼにゃりとした薄明かりでわかった。




「夕枝、今、何時だ?」


「ええと……」


「午後七時半。十分夜って言える時間帯やな」



腕時計を見るのに手間取った私に代って答えてくれたのは、さくらさん。

そっとシュウぼ腕の中から抜け出して振り返ると、携帯のディスプレイの光が、夜闇の中で一際明るく光っているのが見えた。


< 364 / 397 >

この作品をシェア

pagetop