時計塔の鬼
きつく、きつく。
圧死させられるのではないかと思うほど、痛いくらいに。
まるで、腕の中の存在が消えてしまうのを留めようとするみたいに、シュウの抱擁は長く、強く、そして温かかった。
「夕枝……」
耳元で囁かれる声は掠れていて、それゆえにどこか色っぽさを感じさせた。
ポッと顔に熱が灯るのを自覚する。
けれど、それも仕方のないことだ。
相手がシュウなのだから。
「シュウ……? 本当に……?」
「……ニセモノが居るのならお目にかかりてぇな」
「バカ……」
シュウだ。
シュウが、目覚めてくれた。
少しひねくれたシュウの物言いは、出会ったころを思い出させる。
堪え切れずに、温かい雫が頬を伝った。
コンクリートに落ちたそれが黒い染みのように、ぼにゃりとした薄明かりでわかった。
「夕枝、今、何時だ?」
「ええと……」
「午後七時半。十分夜って言える時間帯やな」
腕時計を見るのに手間取った私に代って答えてくれたのは、さくらさん。
そっとシュウぼ腕の中から抜け出して振り返ると、携帯のディスプレイの光が、夜闇の中で一際明るく光っているのが見えた。