時計塔の鬼


「ほら、夕枝ちゃんもおいでやぁー!」


「こら、みかんちゃん、夕枝を急かさないの!」


「……はーい」


「返事だけはいいのにねぇ……はぁ……」



疲れたような歩美の表情と溜め息に、苦笑は絶えない。

それはシュウも同じであるようで、私の肩を抱いた腕はそのままに、時計塔と校舎二階の渡り廊下との境界線へと近づきながら苦笑いしていた。



そうして、境界線ともいえる、色の境。

時計塔の不可視の壁だと、以前にシュウ自身から聞かされたラインを見つめて、立ち止まった。

シュウの腕は、未だ私の肩にある。



「シュウ……また明日」


「ん……、いや、ちょっと待って」


「へ?」



この先は、シュウは出られないはずなのに。

不思議に思って振り返り、シュウの顔を見上げるものの、その表情はただ思案に暮れるそれで、一つを除いて、他の感情は見当たらない。

悩んでいる、のだろうか。

直観でそう思った。

けれど、それではシュウは何に悩んでいる――?


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