時計塔の鬼
「出れる、かもしんねぇんだ」
「出れる……? ど、ういうこと?」
「いや、確証はねぇけど。試すくらいは出来るからさ」
「……うん」
シュウが倒れている間に何があったのか。
それを今の私は知らないけれど。
シュウがそう言うのなら、可能性がゼロではない、ということなのだろう。
それならば……シュウのことを、信じてみたい。
それは、夢見てみていたことだから。
シュウが、時計塔から解放されることは、シュウ自身も、そして私自身もが、願っていたことだから。
「試してみよう?」
「ああ……夕枝、肩抱いたままでもいいか?」
「いいよ」
そう答えると、肩に回ったシュウの腕の力が強められた。
けれど、痛いと思うほどではない、ちょうどいい力具合。
なんとなく、行き場のない私の右手はシュウの服の裾を掴んでいた。
目の前の、私たちには無く、シュウにとってはシッカリとある不可視の壁。
鬼と人間を隔てるラインがそれだ。
「んじゃ、やってみるか」