時計塔の鬼
disappearance.
シュウが消えて、早一ヶ月。
私たち教師陣は、期末テストの採点という重労働をこなしながら、なんとか日々を過ごしていた。
「夕枝~。どうしよ、終わらない」
「私だって終わるかどうか怪しいわ」
「あー、コイツ、アルファベット汚すぎ! aかuかもわかんないような文字書くなぁ! えーん!」
「……ご愁傷さま」
そう嘆きながらも、歩美の手に握られた赤ペンは止まることなく解答用紙の上を滑るように走る。
シュッシュッという音が、ここ、放課後の職員室ではあちこちで聞こえる。
そういう私の手元にも、山積みにされた解答用紙の束が七つある。
三つは終わっているのだけれど、残り四つの山はまだ採点が終わっていない。
学園祭や体育祭の夏休み事前準備で生徒たちが動き出すまでに、なんとか採点を終わらせないといけないのに。
自分の不甲斐無さに、深々と溜め息をついた。
あの、シュウが消えた日から……。
私はできるだけシュウのことを考えないようにして来た。
そうでもしないと、辛かったから。
シュウはどこに行ってしまったんだろう、とか。
もしたかしたら本当に消滅して、もう二度と会えないんじゃないだろうか、とか。
そんなマイナス思考に陥っていく自分を必死に繋ぎ止めるには、シュウのことをできるだけ考えないようにするしかなかった。
……それが、あまり効果を出していなかったとしても、私には他に壊れそうな自分を守るすべが思いつかなかった。