時計塔の鬼
「よかった。セーフで」
「あれはセーフとは言えねぇと思うけど?」
「あ、柚子! ノート提出って明日でよかったっけ?」
クラス内では唯一親しい友達を見つけ、世界史のノートを掲げてみた。
私の姿を確認して、肩に鞄を掛けた柚子がやってきた。
同じ程の身長だけれど、私と違って、柚子は可愛い。
笑った柚子の八重歯とえくぼなんかは特に可愛いと、常日頃からそう思う。
「うわ、沖田さんひでぇ~」
「坂田君、しつこいと夕枝は余計無視し続けると思うよ?」
「柚子、余計なことは言わなくていいって」
「あ、ノートはね、明日でいいんだって」
「本当? よかった。ありがとね」
「どういたしましてっ。あ、夕枝、これからカラオケ行かない?」
目をキラキラさせている柚子に、思わず苦笑する。