時計塔の鬼
――コンコンッ
――コンコンッ
ノックの後に遠慮がちに開けられた扉の音を聞いてやっと、誰かが部屋にやってきたことを理解する。
体にまとわりつく倦怠感のせいなのか。
それとも、さっきまで寝ていたせいなのかは定かではないけれど……。
目の前の人物を見てから理解をするまで、そして声を発するまでに、予想外に時間がかかったように思う。
「夕枝。お粥作ったんだけど、食べられるかしら?」
「んー……」
目の前の人物、私の母親は、そっとドアを閉めると、ベッドに近付いて来た。
ヒヤッとした何かが額に触れた。
「大丈夫かしら……」
母親の呟きによって、それが母親の手であることを理解する。
正直に言えば、せっかくのお粥でも、とても食べられそうにない。
むしろ、食べたら、戻してしまうだろう。