時計塔の鬼


「っ……居たっ!」





見えた。


見つけた。



この数日間、探しても探しても見つけられなかった姿。

求めていた姿を。



肩までの真っ直ぐだった黒髪は、少し伸びたかのように感じる。

頬の肉付きが、少し落ちている。

顎の線は、あんなにも細かったか?



夕枝。



とにかく、早く、早く……




「早く来いよ……っ」




安堵の溜息とともに、その言葉が心の底からするりと抜け出てきた。




そして同時に、はっとする。






俺は何を言った?

なぜ……夕枝を求めてるんだ?



俺は、鬼だろう?


なんで、人間の女なんかを。





ここ最近、頭をもたげる謎にしばらく呆然とする。






< 76 / 397 >

この作品をシェア

pagetop