時計塔の鬼
ジッと、夕枝を見つめた。
見間違いなもんか。
見間違えるわけがないと、
見間違えるはずがないと、俺はなぜか、確信を持って夕枝を目で追った。
風邪をひいていたのだろうか。
そう気づくと、途端に心配が暴風警報を鳴らして心をガクガク襲う。
同時に、塔に来るのが嫌いになったのではないと、そう直感して、少しだけ安堵した。
心の錘が、少しだけ、消えた。
それは、夕枝が、居るからだ。
「あ゛……」
ふいに俺の目に映し出されたのは、校門と校舎の中間地点辺りで、俺の知らない男と談笑している、夕枝の姿。
「……笑って話してんじゃねぇよ」
溜め息が漏れた。
俺のその息には、何か黒くて尖った物が含まれていたようにも思えた。