時計塔の鬼
足を速めて、さっさと昇降口までたどり着く。
久しぶりという感覚で、靴箱の中から上履きを取り出して、履き替えた。
「あっれー? 沖田さん? 久しぶり!」
「久しぶり。元気?」
「うん、それなりに~。あ、柚子っ。沖田さん来てるよー!!」
昇降口で会ったクラスメイトの一人が、階段を上ろうとしていた女子生徒に声をかけた。
いくら校舎の中とはいえ、昇降口は寒さが風に乗って運ばれてくる。
手足が、冷たい。
「え? あ! ほんとに夕枝だぁ! 体どんな感じ? 風邪もういいの?」
駆け戻ってきたのは柚子で、少しホッとした。
そしてすぐさま繰り出される矢継ぎ早の質問に、苦笑が漏れる。
ひどく懐かしい感じがする。
「うん、もう大丈夫」
一週間ぶりということもあって、友達や知り合いに会うたびに声をかけられる。
けれど、笑顔で返すものの、内心、既に疲れを感じていた。
隣を歩く柚子に聞こえないように、そっと溜め息をついていた。