魔女に誘われて
さて、出発の時間が近づき、皆が浮き足立つ中、一人、この世の終わりのような顔をしている青年がいた。
濃い藍色の髪を持つ、彼の名は、ファル。
彼が浮かない顔をしている理由は一つ。
幼なじみたちが自分で旅の目的を決めたるのに対し、彼の旅の目的が生まれ落ちたときから決まっているということ。
しかもそれが、毛頭できるはずがないことであるため、憂鬱な気持ちでいっぱいなのだった。
「はぁ…」
できれば旅になど出たくはない、この村に残って牛の世話でもしながらのんびり暮らしたいというのが、ファルの本音である。
しかし、旅の目的が自分の命に関わるものであるため、そうも言っていられないのが現状だった。そう、ファルの旅の目的は自分にかけられた死の呪いを解くこと。
しかも、この呪いを解くことができるのは、世界に数えるほどしかいない魔女と呼ばれる人種だけ。
ありえない…。
生まれてから、何度口にしたかわからないこの言葉をファルは脳内で繰り返していた。

「おーい、集まれー」
そのとき、村長が青年たちを呼び集めた。
出発の刻限が来たのである。
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