BLUE STILLNESS
卒業
「………どうして…?」
優しく朝日を遮るレースカーテンのせいだろうか
まだどこか夢の続きのようなフワフワとした意識の中
私は自室にある衣装鏡の前に立ちシワ一つない真っ白なYシャツのボタンを力の入らない手でゆっくりと留めながら
誰にも聞き取れないほど小さな声で鏡に映る自分にそう問いかけていた。
涙がひとしずく頬をつたい口に入ってくる。
ほんの少し甘くしょっぱい涙特有の味を口の片隅に感じながらいくら同じことを鏡に映る自分に問いかけてみても当然答えは返ってこない。
少しずつ男の輪郭を成してきた顔と身体を見る度に
すっかり声変わりして低くなった声を聴く度に
自分のものとは思いたくない私が毎朝そこにいた。
「あと少し…あと少しだから…」
中学卒業を2ヶ月後に控えた私はそう自分に言い聞かせながら一番着たくない学ランに腕を通す。
家を出る直前に再び鏡の中の自分と向き合い
「俺は男だ…」
少し力を込めた強い口調で言い
朝の儀式を終え玄関を出た。