キミノタメノアイノウタ
「母さん、私…ここが好き…」
私は父さんには言えなかった本音をポツリと溢した。
私はこの町が好きだ。
夏は焼け付くように暑くて、潮風がまとわりついても。
冬は海風がビュービュー吹いて、鼻の頭を真っ赤にしても。
みんなおせっかいで、あきれるくらい優しくて。
私はここが大好きだ。
「好きだからここに残ろうって思ったの。それっておかしいこと…?」
私を形作った物が大事。
変わらないこの場所にいると心から安心できる。
でも、兄貴と千吏はそうじゃないみたい。
外の世界にはここにはないものが沢山あって、それはどうしようもなく彼らを惹きつけてしまう。
どうして?
どうして、みんなここにはないものを求めてしまうの?
それはこの町より大事なものなの?
私にはどうしても分からなかった。
……分かりたいとも思わない。