キミノタメノアイノウタ
教室の扉はピシャリと閉じられた。
追いかけようとする浅倉を制止したのは私だった。
「もういいよ…浅倉…」
困ったような浅倉の顔がやけに滲んで見えるのは気のせいか。
「もう…いいの…」
上手く笑えて言えただろうか。自信がない。
危惧していた面談はあっという間に終わってしまった。
浅倉は父さんが放ったひと言にずっと腹を立てていた。
……面談が終わった後、私を校舎から送り出すときも。
「田中!!親父さんのことなんか気にするな!!」
浅倉があんまりにも心配そうだったから、私は笑って頷いた。
「大丈夫、気にしてないから」
……いつものことだって冗談交じりに言えたら良かったのに。
「良く聞け、田中」
浅倉は今まで見たことがないような真剣な表情で言った。
「お前たち、高校生には無限の可能性がある。諦めるな、闘え」
……ねえ、浅倉。
無限の可能性って何?私は何と闘えば良いの?
私にはわかっていたんだ。本当は薄々は気づいていた。
ただ、認めるのが怖くて何もわからない振りをしていたんだ。
私は気が付くと赤く染まった校舎を背に走り出していた。