キミノタメノアイノウタ

「瑠菜じゃん」

……灯吾は今日も飽きもせずに堤防に腰を下ろしていた。

不思議そうに私を見上げるその姿が、涙で滲む。

「今日、面談だったんだろう?もう終わったのか?」

寄せては返す波の音が耳の奥に響いてる。潮風で髪が舞い上がる。

あれほど美しい青い海も今日は私の心を慰めてはくれない。

(どうしてなんだろう。聴きたくてたまらないの)

「お願い…。歌って」

「は?」

灯吾はポカーンと口を開いた。

「お願いだから……!!歌ってよ!!」

私はその場にしゃがみこんで灯吾に……灯吾の歌に縋りついた。

……泣きたかった。

思いっきり声を上げて泣いてしまいたかった。

父さんの機嫌を取りたいわけじゃなかった。

私の気持ちを知って欲しかったわけでもない。

ただ。

……兄貴の代わりとしか見てもらえてないのは辛かった。

< 112 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop