キミノタメノアイノウタ
「歌って…っ…!!」
灯吾はただならぬ私の様子にひたすら困惑していた。
沈黙が下りてきて、潮騒がやけにうるさく感じる。暫くして、私の頭に灯吾の手が下りてきた。
「わかった。歌ってやるから…泣くなよ」
顔を上げると根負けした灯吾が苦笑いしているのが見えた。
灯吾は私から2、3歩離れて高らかに歌い出した。
何も考えないように眼を瞑る。
やがて私の耳には灯吾の歌しか聴こえなくなった。
泣くなと言われたのに、私の目から涙が次々と流れていった。
あの夜、これ以上聴いちゃいけないと思った理由がわかった。
……灯吾の歌はこんなにも優しい。
優しすぎて、全てを投げ出して縋りつきたくなる。
……今の私のように。
感情の赴くままに涙を流させてしまう力がある。
……でも、夢のような時間は直ぐに終わりを迎えた。