キミノタメノアイノウタ
8
……今、思えば俺の人生は常に音楽とともにあった。
「灯吾ってば本当にピアノが好きなのねぇ…」
母親はふふっと慈愛に満ちた表情でピアノの傍らでじっと耳を澄ませている俺を見た。
それはかけがえのない時間だった。
母親の奏でる音色は心地が良く、俺はいつだってそれを聴きながら目を閉じていたのだった。
母はピアノが好きだった。
いや、俺に聴かせるのが好きだったのかもしれない。
古河さん家といえば近所でも有名で、夜以外はピアノの音色が絶えたことはないと専らの噂だった。
大概、ピアノ音と言えば騒音の元として嫌がられるものだが近所の評判は良好だった。
時々、近所のおばさん連中に小さなコンサートを開いていたくらいだ。
母親の人柄のなせる業である。
とにかく俺は母親のピアノの音色を子守唄代わりに育った。