キミノタメノアイノウタ
そうして育つうちに俺自身がピアノを弾き始めることになるのは当然の結果だろう。
「まあ灯吾!!とっても上手ね!!」
母親が手を叩いて喜ぶ度に誇らしい気分になった。
「ぼくね!!将来ピアニストになる!!」
満面の笑顔で言ったあの日の言葉に嘘偽りはなかった。
今でもそう思ってる。
でも。
……その夢が永遠に叶えられることはない。
12歳のときだった。
俺は中学校に入学すると同時にピアノをすっぱりとやめた。
母親にやめないでくれと嘆願されても頑なに拒んだ。
なぜならば、ピアノがかつての日々のように楽しいとは思えなくなっていたからだ。
その原因は他ならぬ母親にあった。
母親は息子をピアニストにするためとコンクール優勝に並々ならぬ努力を注いでいた。
でも俺にとってコンクールの為の練習はひどく窮屈で味気なかったのだ。