キミノタメノアイノウタ
ピアノをやめてから直ぐは今まで感じたことのないくらい解放された気分になれた。
俺は何をするにも自由になった。
新しい制服と教科書は目に鮮やかだっだし。
友達と学校帰りに寄り道することだって初めてだった。
俺は今まで我慢してきたことを全てをやりつくした。
……でも、その先にあったのはまた同じような退屈な日々だった。
(俺はもっと…)
……心の奥底で違う何かを求めていたのに。
ふうっとため息をついて、いつものように駅に向かう。
真っ直ぐ家に帰れば母親と顔を突き合わせることになる。
それが面倒で俺はいつも駅前で適当に時間を潰してから帰ることにしていた。
母親が俺とコンクールに執着するようになったのは、父親と離婚してからだった。
コンクールで優勝すれば、出て行った父親が戻ってくるとでも思っているのだろう。
かつての思い出を懐かしく思っているのは、俺だけではなかった。