キミノタメノアイノウタ

……傘なんて持っているはずがない。

濡れて帰ることを覚悟して、はあっと息を吐いてまた本に向かう。

読み終わる頃には止んでいるだろうとたかをくくる。

そんな俺の集中を邪魔したのは、先ほどと同じ女性二人組の笑い声だった。

「さっきの人凄いよね!!」

「なにもこんな日に歌わなくてもいいのにね!!」

クスクスと漏れ出る笑みは、呆れているようにも、小馬鹿にしているようにも聞こえた。

どうやら駅前で歌ってる若い男がいるらしい。

(確かによくやるよな)

……こんな日に外で歌うなんて。

降り積もる雪が街を真っ白に染めていく。雪の結晶は外灯に照らされて、ぼうっと光って幻想的な風景を作り出す。

道行く人たちは皆、雪を見ると驚いたり、はしゃいだりさまざまな表情を浮かべていた。

俺はその様子を空調が効いたファミレスの中でひたすら眺めていた。

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