キミノタメノアイノウタ
キュッキュッという雪を踏みしめる音に混じるかすかな異質な音。
最初、俺はその存在に全く気づかなかった。
でも。
その音が少しずつ膨らんでいくと、無視できなくなった。
俺は家路につく足を思わず止めて、後ろを振り返った。
(……なんだよ、この歌は)
傘もささずに歩いていたせいで、俺の肩には雪が降り積もっている。
一刻も早く家に帰って温かい布団を被って寝てしまいたい。
そう思っているのに。
……俺の耳にはその歌しか聞こえなくなった。
俺は踵を返して駅前に戻った。
歩くのももどかしくて、慣れない雪道を走り出す。
(どうして)
……どうしてこんなに泣きたくなるんだ。