キミノタメノアイノウタ
「なあ!!」
俺は気がつくとその得体の知れない人物に話しかけていた。
そいつはジロリと俺を見上げて不愉快そうに返した。
「なんだよ?くそガキ!!」
圧倒されそうな雰囲気に軽くたじろぐが、先ほどの興奮が戸惑う気持ちに勝った。
「今のは?今の曲は何ていうんだ!?」
そいつはニヤリと笑って地面に置いていた楽譜を渡してきた。
ジイッと食い入るように楽譜を見つめる。
……楽譜には何も書かれていなかった。
「バーカ!!あんなのはさっき適当に作ったに決まってんだろ!!」
(て…適当に…?)
そいつはふうっと息を吐いてギターをケースにしまった。
「中坊は早く家に帰れよ?」
呆気にとられている俺の直ぐ傍を通り抜けていく。
「すげえ…」
俺は何も書かれてない楽譜をグシャリと握りしめた。
この時、微かに芽生えた輝きはこれから先ずっと。
……俺の行く末を示す光となっていった。
それが俺と“ハル”の最初の出会いだった―…。