キミノタメノアイノウタ
10
……時々、無性に叫びだしたくなる時がある。
「ごちそうさま」
父さんは椅子から立ち上がって、そのまま洗面所へと向かった。
それに続くように、母さんが黙って父さんの分の食器を片付けてシンクに持っていく。
私は味噌汁の椀に口をつけながら、慣れた手つきで食器を洗い始めた母さんの背中を眺めていた。
父さんが台所に立つことなんてない。今時珍しいくらいの亭主関白。
自分の使った食器の片付けなんて、もってのほか。
「じゃあ瑠菜、お母さん仕事行くからよろしくね。侑隆達の分のご飯は冷蔵庫に入れておくから」
引き出しの取っ手に掛けられたタオルで手を拭いた母さんは、そう言ってエプロンを外して椅子の背もたれに掛けた。
ダイニングから出ていく時に、ちらりと私に視線を寄越す。
……バチリと目が合った。