キミノタメノアイノウタ
「どうして…灯吾は歌えなくなったの…?」
私と兄貴の間に緊張が走った。
ジワリと肌に汗が滲む。
今朝は扇風機をつけていなかったことを思い出す。
エアコンはどこか調子の悪いまま、既に存在を忘れられていた。
きっとこの夏は全く役に立たないままだろう。
兄貴は私の質問に答えず、沈黙を守っている。
「教えて」
再度、答えを請う。
……私はどうしても知らなければならないような気がした。
あの時、灯吾の歌を求めたのは他でもない。
……私だから。