キミノタメノアイノウタ
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「あの……止めなくてもいいんですか……?」
「まあ、好きにやらせておけよ。数年ぶりの再会で神経が高ぶってんだろ?」
侑隆と瑠菜にタツと呼ばれていた人は派手に争い始めた二人をよそに、炊飯器からご飯のお代わりをよそった。
(兄妹喧嘩にしては派手な音がすんだけど……)
ドスンバシン容赦なく響く音にこの木造平屋建てが壊れるんじゃないかって心配になる。
兄妹喧嘩などしたことはないが少しやり過ぎではないだろうか。
「まあ、侑隆だってバカじゃないんだから怪我なんてさせねーよ」
「はあ…」
「俺はあんたの方がよっぽど心配だけどな」
そう言って、タツさんはご飯を口の中に掻きこんだ。
「今、人気絶頂のバンドが突然の休止宣言。この小さい町でも知っている奴は知っているんだぜ?」
……この人はすべて知っている。
俺は全てを悟った。
タツさんの俺を見る眼差しは、逃げ出したあの街の人たちによく似ていた。
「瑠菜は知らないみたいでしたけど?」
正体が知られて動揺していることを悟られないように、サラリとかわす。
「あいつはあんまりテレビも見ないからな。それにお前らはメディアへの露出が少ない分、顔も知られていないしな」
「よくご存知ですね?」
瑠菜よりは俺達のことに詳しいらしい。