キミノタメノアイノウタ
「まあな。侑隆とは生まれた時からの付き合いなんでね。俺はあいつのファン1号なのさ」
肩を竦めておどけるように言うと、とタツさんは急に俺を真剣な目で見つめた。
「お前はみたいな奴は早く帰った方がいい」
茶碗と箸がゆっくりとテーブルにおかれる。
「ここは海と山以外、何もないからな」
タツさんは畑に戻ると言って、まだケンカを続けていた瑠菜と侑隆を放っておいてサッサと帰ってしまった。
俺はタツさんが帰っていった後も椅子に座り続けていた。
頭の中ではここに来るまでに至った様々な出来事がグルグルと回っていた。
そんな俺の意識を取り戻させたのは他でもない、夏の香りだった。
ずっと……。
俺は考え続けていたんだ。
俺があそこにいる意味を。
歌い続けていく意味を。
分岐点に立たされた俺にとって、この夏はこの先の未来を決める長い休暇になりそうだった。