キミノタメノアイノウタ
俺はぎゅっと拳を握りしめた。
(今日で最後にしよう)
唐突にそう思った。
この胸の高鳴りは一時の気の迷いだと思って忘れたことにする。
俺は音楽を捨てた。
それを今更どうこうしようなんて、都合が良すぎる。
……さようなら。
もう、二度と会うことはないと思うけれど。
あんたみたいに音楽に愛された人間が日の目を浴びることを祈ってる。
(じゃあな)
歩道橋を駆け下りて家へと向かう。
その時、ふわりと風が雑踏を通り抜けた。
ポツンと頬に雨粒が落ちる。手を広げて空を見上げる。
…その途端に水盆を引っくり返したような大雨になった。