キミノタメノアイノウタ

(あいつならこんな日でも歌いそうだ)

そう思って笑みがこぼれた。

あの日降り始めた雪は次の日になっても止むことなく、この街を真っ白に染め上げていった。

交通機関は軒並みマヒし、学校は臨時休校。

観測以来、最大の積雪量を記録した。

そんな悪天候で歌っていたならこんな雨なんともないだろう。

雑誌から、窓に目をやる。

ガラスを伝う水の量が雨の激しさを物語っていた。

「あっ!!」

周りの人からの視線を感じて、俺は慌てて口をつぐんだ。

どうやらここにも物好きがいるようだ。

ガラスの向こう側。

高架下、蛍光灯に照らされた姿。

……見覚えがあった。

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