キミノタメノアイノウタ
「うわ。お前、ビショビショじゃん」
そいつは俺の格好を見ると開口一番にそういった。
制服の袖で顔を拭ったが、ほとんど意味がない。髪の毛からポタポタと雫が垂れていく。
「あんた…。まえに駅の歩道橋で歌ってたよな…?」
辛うじてそれだけ尋ねる。
あの日と服装は違うけど、被っているニット帽は前に見たものと同じだった。
そいつは首を傾げてうーんとうなった。
「そーいえばそこも行ったような…」
ああそうだ。やっぱりこいつだ。
手のひらで顔を覆う。
ずっとこの人の歌に会いたかった―…。