キミノタメノアイノウタ
「お前は音楽が捨てられないんだよ」
パチンとギターケースの蓋が閉まる。
「いいじゃん、お前。それくらい音楽が好きな奴なんてそうそういないよ。大事にしなよ、その気持ち」
そいつはバシバシと俺の腕を叩いた。
「どんなに御託並べたって無理なんだよ。戦場から命や国土を奪えても、音楽までは誰も奪えなかった」
俺の目からまた一筋、涙が流れていった。
「私、相沢春菜っていう名前なの。明日もここにくるから、暇なら来なよ」
そいつが被っていたニット帽をとると、黒くて長い髪がふわりと流れた。
そしてへへへっと歯を見せて楽しそうに笑ったのだった。