キミノタメノアイノウタ
13
「なあ、なんでハルは楽譜に何も書かないんだ?」
ハルは今日も相変わらずニット帽を被って、街頭で歌っていた。
地面に胡坐をかいて、ギターを持つ。
立ち止まる人はそんなにいない。
おひねりをもらうためのギターケースの前にしゃがんでいるのは俺くらいだ。
再会してから新しい習慣が増えた。
ハルの歌を聴いて少し話をしてから帰る。
ハルは必ず前の日に、明日はどこそこでやると告げていく。
そのお陰で以前のように会えないということはなかった。
ちなみにハルっていう呼び名は俺が考えたわけじゃない。
春菜さんって呼んだら、ハルって呼べと訂正されたのだ。
どうやら本名で呼ばれるのは恥ずかしいようだ。