キミノタメノアイノウタ
「なあ、俺も一緒に歌ってみたい」
季節をひとつ跨いで、残暑と呼ばれる夏の名残も見かけなくなった頃だった。
駅前では帰宅を急ぐサラリーマンや学生がバスを待っていた。
今日も相変わらず、誰も立ち止まらない。
俺は顔色を窺うようにハルを盗み見た。
ハルはポカーンと口を開けていた。
「……本気?」
かろうじてそう聞き返される。
「うん」
(本気じゃなかったらこんなこと言うか)
ハルは眉間に皺を寄せてうなった。
「私が言うのもなんだけど、やめといたほうがいいんじゃない?あんたまだ若いんだしさ」
「嫌だ」
俺は頑として譲らない。