キミノタメノアイノウタ

「恵じぃは知っているんだよね。奏芽がここを出ていくつもりだってこと」

「そうじゃな」

恵じぃはふーふーと息を吹きかけて、湯のみを冷ました。

ゴクリとおいしそうにお茶を口に含む。

清清しいほどあっさりとした返事に私の方が困惑する。

「反対しなかったの…?」

「ああ、しなかった」

意味がよく分からなくて首を傾げる。

だって恵じぃは、兄貴の時には反対したじゃないかと言いたくなる。

なんで奏芽のことは反対しなかったのだろう。

「いくつになったら人は正しい生き方ができるんじゃろうな…」

恵じぃはコトンと湯飲みを盆の上に置いた。

目を細めてどこか遠くを見つめている。

一体恵じぃの瞳には何が映っているのだろうか。

「昔、タツが侑隆と同じようにここを出ていこうとしてたのを知っとるかい?」

「うん」

確か、大学進学を条件に突きつけられたという話だった。

あのタツが机にかじりついて勉強していたらしい。

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