キミノタメノアイノウタ
「ほら、泣きべそかくなよ。せっかくの浴衣が台無しになるだろ?」
灯吾が茶化しながら私の頬の涙を拭う。
他の誰かのために泣いたのは生まれて初めてだった。
「……折角似合ってんだからさ、浴衣」
宥めるように頭を撫でられると、ぎゅうっと胸が締め付けられた。
この想いに名前をつけるとするならば。
……恋なのだろうか。
恋と呼ぶにはあまりに切ない。
灯吾はいずれこの町から去っていく。
それがわかっていても、涙を拭う手を愛しいと思うことはやめられなかった。