キミノタメノアイノウタ
私の住んでる町は高齢化と少子化と過疎化をもろに食らうような辺鄙な場所にあった。
一番近い駅までは車で1時間。コンビニは40分。
主な産業は農業と漁業である。
四方を山と海に囲まれたこの町での主な交通手段は車と、朝と夕方に1本ずつしか走っていないバスだけだった。
若者がみんな都会に行ってしまうのも無理ない。
遊ぶところも、働くところもまともにない町ではいつだって若者は退屈を持て余す。
我が兄も都会に行った退屈を持て余した若者の内のひとりだった。
「これ、重いんだけど!」
兄貴の持っていたリュックサックはとてもじゃないが自転車のかごに収まりきらなかった。
パンパンに詰まったリュックサックを仕方なく背負ってみれば、何が入っているか分からないが恐ろしく重い。
「きりきり運べ」
兄貴は私の文句を聞かなかった振りをして、さっさと自分だけ歩き出した。
逢ったばかりだというのに既に兄と妹の上下関係を思い出しつつある。
(自分は手ぶらの癖に!)
私はふらふらと自転車を右へ左へと漕ぎ出した。
前を歩く兄貴に恨みの念を送っていると、不意に肩が軽くなる。