キミノタメノアイノウタ
「灯吾は?」
「出かけたみたいだな」
「そう…」
灯吾の方が幾分、健康的だ。
兄貴は冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出すと、部屋に戻ろうとする。
ふと思いついてその背に声を掛ける。
「ねえ、兄貴。なんでこの町から出ていったの?」
足音が止んで、兄貴がくるりと振り返る。
「……やりたいことがあったから」
兄貴は自分の部屋に入っていった。
襖が敷居を滑ってカツンと柱にぶつかった後は、沈黙がこの場を支配していた。
答えはシンプルかつ平凡で。
……だからこそ重みがあった。
私は廊下をずんずん歩いていって、後ろ手に自分の部屋の襖を閉めた。
ふらふらと覚束ない足取りで学習机の前までたどり着く。
ゆっくりと引き出しを開ける。
引き出しから出てきたのは。
……W大のパンフレットだった。