キミノタメノアイノウタ

何度も捨てようと思った。

S大に行くんだからって自分に言い聞かせてた。

私はこの町で生きて死んでいくんだって思ってきたのに。

……ここにきて分からなくなってしまった。

机の上にパンフレットを置いてパラパラとめくる。

綺麗な校舎、豊富な教職員を売りにしているだけあって人気も高い。

かつて私もこのパンフレットを読んで、胸を躍らせていた。

いつからだろう。

……やる前から諦めるようになってしまったのは。

父さんが反対するから。

この町の居心地がいいから。

言い訳ばかり並べ立てるのが癖になっていた。

なんだか泣きそうだった。

新しい世界に飛び込みたいっていう気持ちと、ここから出ていきたくないって気持ち。

どちらも本物だから余計に苦しい。

両方の気持ちがせめぎあって身動きが取れない。

誰か。

誰か。

……助けて。


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