キミノタメノアイノウタ

「はい」

奏芽の前に冷茶の入ったのコップを置く。

「さんきゅ」

私は奏芽とは卓袱台を挟んだ向かい側に座った。

さあ、楽しく会話しましょうなんて雰囲気にはなれなかった。

視線を合わせることも出来ずに、私は冷茶の注いであるコップを眺め続けた。

雫が幾筋も垂れていて流れた沈黙の長さを感じさせる。

そのうち堪りかねたように奏芽が口を開いた。

「…これ、昨日置いてったから」

奏芽がカバンから取り出したのは私が落とした赤い巾着だった。

「ありがと…」

受け取った巾着には少し砂埃がついていた。

そっと撫でる。

奏芽だって昨日の今日で、ここにくるのは相当な勇気が必要だったはずだ。

私が巾着を大事にしていることを知ってて、わざわざ届けにきてくれたのだ。

その勇気に応えるように顔を正面に向ける。

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