キミノタメノアイノウタ

「うわっ…!!」

大きな石に躓いて転びそうになって、思わず大声を上げる。

辛うじて踏みとどまると、ホッと胸を撫で下ろす。

抜け穴はもちろん整備などされていない。ゴミや枯葉が行く手を阻む。

(もう少し…)

私は逸る気持ちを抑えながら着実に前へと進んだ。

その甲斐あってか、無事に抜け穴を通り抜けることが出来た。

抜け穴はグラウンドの隣にある部室棟の裏側に通じていた。

私は校舎脇に設置されている非常階段を目指した。

……校舎の中を通らずに屋上に行くには非常階段を使うしかない。

きっと灯吾もここを通ったはずだ。

階段を上る度にカツンカツンと金属が擦れる音がする。

空が段々と近づいていく。

キラリと光る太陽が眩しくて私は目を細めた。

……きっとこの先に灯吾がいる。

そんな予感が胸を占める。

ようやくたどり着いた屋上には、手すりにもたれかかって空を見上げている人がいた。

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