キミノタメノアイノウタ
「絶対…こっちだと思ったのに…」
ハルはまだ拗ねていた。
「春の歌は春に歌ったほうが気分もいいだろ?」
「…それもそっか」
ハルはポンと手を叩いた。
……現金というか単純というか。
ハルは俺や侑隆が言ってもきかないことでも、ユキの言うことには必ず耳を傾ける。
ユキは独特の柔らかい雰囲気を持つ男だった。
突然、侑隆が俺を連れてきても全く動じていなかった。
「君は…歌がうまいね」
すべてが終わり、緊張がとけて舞台袖でへたり込んでいる時だった。
「初めてなのにハイってマイク渡されてあれだけ堂々と歌える人はそうそういないよ」
ユキはふわりと微笑んでタオルを渡してくれた。
とても音楽をやるとは思えない真面目な風貌に話し方。
……第一印象は気の弱そうな優男。
しかし、その見解はすぐに覆されることになる。
一見すると好き勝手やる俺達にユキが振り回されている印象が強い。
……実は逆だ。