キミノタメノアイノウタ
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「あの頃…俺の世界はハルとazureと歌で溢れてた」
灯吾は空を仰いで昔を懐かしんでいた。
遠い、遠い、思い出…。
そのひとつひとつが眩しい光となって今の灯吾を包み込んでいた。
私は堪りかねて聞いた。
「それからどうなったの…?」
灯吾の髪が揺れる。
伏せられた瞼の裏の光景に思いを馳せる。
唇が僅かに震えていた。
「…壊れたよ」
……消え入りそうな声だった。
「次の春、俺達が一緒に歌うことはなかった」
2人が交わした約束は果たされることがないまま、今日までやってきてしまった。
「ハルはすごい奴だ、ユキは大人だって先入観に囚われてたんだ」
手すりが強く握られる。
「今ならわかるのに…なんであの時気づけなかったんだろう…」
灯吾の声には後悔ばかりが滲み出ていて、かける言葉が見つからなかった。
「…ハルもユキも…俺が思ってるほど強くなかったのに」
……一体…灯吾達の身に何が起こったというのだろうか。