キミノタメノアイノウタ
ファンのためとか、そんなこと口が裂けたって言えやしない。
俺はazureの古河灯吾としてじゃない。
いつだって一人の男として歌ってきた。
それさえも許されないのだろうか。
神様は俺からハルとユキだけじゃなく歌まで奪うのだろうか。
「灯吾…」
名前を呼ばれて瑠菜の肩から頭を上げる。
俺と同様、瑠菜の瞳が涙で濡れていた。
その頬に触れる。
「……温かい」
生きている人間の温もりだった。
「灯吾も…あったかいよ」
瑠菜が俺の頬を両手で包み込んだ。
瑠菜の手に自分の手を重ねた。
……生きてる。
俺は確かにこの瞬間を生きている。
そんな当たり前のことに気づかされる。